公開日: 2025年6月14日

【衝撃】熱海はもう古い?尾道「せとうち湊のやど」に学ぶ、地方創生と空き家再生の"禁断の"秘密【悪用厳禁】

【衝撃】熱海はもう古い?尾道「せとうち湊のやど」に学ぶ、地方創生と空き家再生の"禁断の"秘密【悪用厳禁】

「寂れた温泉街」「シャッター商店街」──かつて、多くの地方都市が抱えていた負のイメージ。しかし、近年、その状況を劇的に変え、V字回復を遂げた都市が存在します。その代表例が静岡県熱海市と広島県尾道市です。

熱海は「おしゃれ熱海」として若者や海外観光客を惹きつけ、尾道は「空き家再生の聖地」として独自の魅力を確立しました。果たして、熱海の再生手法は"もう古い"のでしょうか?そして、尾道、特に「せとうち 湊のやど」が実践する地方創生と空き家再生の"禁断の"秘密とは一体何なのでしょうか。本記事では、両市の取り組みを比較し、これからの地方創生に必要な本質を探ります。

熱海のV字回復:かつての成功と「おしゃれ熱海」の誕生

かつて「東洋のナポリ」と称された熱海は、高度経済成長期に団体旅行のメッカとして栄華を極めました。しかし、バブル崩壊後は観光客が激減し、街には空き家や空き店舗が目立つようになり、財政危機宣言まで出される深刻な状況に陥ります。

このどん底から熱海を救い出した立役者の一人が、地元出身の市来広一郎氏です。彼は2007年に熱海にUターンし、2009年にはNPO法人atamistaを設立。補助金に頼らない民間主導のまちづくりをスタートさせました。

「内側からファンを作る」体験交流型プログラム「オンたま」

市来氏がまず着手したのは、地元住民の意識改革です。「そこに住む人々の暮らしの息吹が感じられる街こそが魅力的だ」という考えのもと、体験交流型プログラム「熱海温泉玉手箱(通称オンたま)」を開始。地元住民がガイドとなり、熱海の知られざる魅力を発掘・発信するこのプログラムは、地元の人でさえ知らなかった熱海の魅力を再発見する機会を提供しました。

「オンたま」は3年間で約220種類のツアーを企画し、5000人が参加。参加者の半数は熱海在住者や別荘族で、彼らが熱海の魅力を再認識することで、街へのイメージがポジティブに変化しました。地元住民の約70%が「熱海のイメージが良く変わった」と回答するほど、内側からのファンづくりに成功したのです。

シャッター街を変貌させたリノベーション戦略「machimori」

「オンたま」で地元住民の意識を変える一方で、市来氏は「稼ぐ」ことの重要性を認識します。2011年、まちづくり会社「machimori」を創業し、シャッター街と化していた熱海銀座商店街を「クリエイティブな30代に選ばれるエリア」に変えることを目指しました。

machimoriは、熱海銀座の空き店舗をリノベーションし、コミュニティラウンジ併設のゲストハウス「MARUYA」、カフェ「MARUYA Terrace」、コワーキングスペース「naedoco」などを次々とオープン。これらの施設は、単なる店舗ではなく、移住者やフリーランス、地元住民が交流し、新しいアイデアが生まれるコミュニティの核となりました。

定期的なマルシェイベントも開催し、商店街に賑わいを取り戻しました。当初は懐疑的だった地元商店街の反対派も、今では最大の応援者になっていると言います。

「おしゃれ熱海」を形作る多様なプレイヤー

熱海の再生は、市来氏一人の力ではありません。彼の活動に触発された多様なプレイヤーたちが「おしゃれ熱海」という新しいイメージを形作りました。

  • 熱海プリン: 株式会社フジノネが手掛ける「熱海プリン」は、温泉地ならではの要素と可愛らしいパッケージデザインでSNSを中心に話題となり、若者や外国人観光客を呼び込むキラーコンテンツとなりました。店舗デザインもレトロモダンでおしゃれです。
  • Eatable of Many Orders: デザイナーの新居幸治さん・洋子さんご夫婦が熱海に拠点を構えるファッションブランド。年季の入った土産物店のビルにある直営店兼アトリエは洗練された空間で、熱海に新しいクリエイティブな風を吹き込んでいます。彼らは熱海でファッションショー「熱海コレクション」も開催し、地域住民を巻き込んだ新しい試みを行っています。
  • 新熱海土産物店ニューアタミ: 地元ハツヒ株式会社が手掛ける土産物店。昔ながらのお土産と若手クリエイターのアイデアを融合させ、熱海のディープな魅力を新しい形で発信しています。

熱海市もまた、「熱海市チャレンジ応援センター A-biz」による事業者支援や、メディアのロケ誘致、JTBと連携したプロモーション、ワーケーション誘致など、官民一体となった多角的な集客戦略を展開し、熱海のイメージ刷新に貢献しています。熱海は、観光客数をV字回復させただけでなく、より多様で持続可能な観光地へと進化を遂げたのです。

尾道の独自戦略:歴史を活かす「ディスカバーリンクせとうち」の挑戦

一方、広島県尾道市もまた、空き家再生と地方創生の先進事例として注目されています。2000年代からの「尾道空き家再生プロジェクト」や地元事業者の飲食店展開により、ストック活用の点では全国から注目されてきましたが、近年、その動きをさらに多角的な視点へと深化させているのが、2012年設立の「株式会社ディスカバーリンクせとうち」です。

ディスカバーリンクせとうちは、「住む人と訪れる人の両方に、まちの魅力を再発見できる機会をつくる」「まちづくりを通じ、事業と雇用を創出する」という理念を掲げ、複数の事業を市内で展開しています。

多角的な事業展開と雇用創出

  • せとうち 湊のやど: 観光名所である千光寺へ上る階段の途中に設けた貸切スタイルの宿泊施設。これが同社の事業の皮切りとなりました。後述で詳しく解説します。
  • 尾道デニムプロジェクト: 2013年4月開始。尾道で働く様々な職業の人に約1年間着用してもらった備後産のデニムを、付加価値のあるユーズド製品として販売。商店街の一角に店舗を開設し、全て対面販売とすることで、備後地方が日本有数のデニム産地であることをアピールしています。
  • ONOMICHI U2: 宿泊、飲食、物販の機能を持つ複合施設。県が所有し市が管理を委託されていた海運倉庫を利活用する公民連携プロジェクトとして、2014年3月に開業しました。瀬戸内しまなみ海道の本州側の玄関口としてサイクリング客の受け皿となるだけでなく、地元の人が日常的に使う場としても機能しています。開業から3年で、宿泊客の3割強がサイクリング目的、3割がインバウンドと、高い稼働率を維持しています。
  • ONOMICHI SHARE: 2015年1月開業。市が資料用の倉庫としていた場所をシェアオフィスに改修したもので、ウォーターフロントに位置しています。約70席を有し、会員制のシェアフロアとしてだけでなく、サイクリングやクルージング体験など、尾道ならではのアクティビティを提供する場にもなっています。

ディスカバーリンクせとうちの出原昌直代表は、「展開してきた複数の事業が、うまくつながって回り始めるまでに、あと少しのところまで来たかなと感じている」と語るように、各プロジェクトが相互に連携し、地域全体の活性化に貢献しています。同社は「5年間で1000人の雇用を創出する」という明確な目標を掲げ、観光を手段とした地域雇用創出に取り組んでいます。

「せとうち湊のやど」成功の"禁断の"秘密とは?

ここからは、尾道の空き家再生と地方創生を象徴する存在である「せとうち 湊のやど」に焦点を当て、その成功の"禁断の"秘密を深く掘り下げていきます。

1. 歴史的建造物の魅力を最大限に引き出すリノベーション

「せとうち 湊のやど」は、「島居邸洋館」と「出雲屋敷」という、異なる時代の歴史を物語る2つの歴史的建造物を再生した宿泊施設です。そのリノベーションは、単なる修復に留まらず、それぞれの建物の歴史や個性を尊重しつつ、現代の宿泊者が快適に過ごせるよう機能性を向上させている点が"禁断の"秘密の一つです。

島居邸洋館:昭和初期の豪商の趣とモダンな快適性

1931年築の「島居邸洋館」は、昭和初期の豪商の邸宅。スペイン瓦や丸窓、モルタル洗い出しとスクラッチタイルを用いた擬洋風の外観は当時の面影を色濃く残しています。内部は、元の構造を補強しつつ不要な壁を取り除くことで、ゆったりとした流動的な空間に生まれ変わりました。特に、蔵を活かした大胆な吹き抜けは圧巻です。柿殻粉の粉末を使用した瀬戸漆喰で改装するなど、自然素材へのこだわりも見られます。

2階のバルコニーからは尾道水道を一望でき、瀬戸内の暮らしを感じられるオリジナルベンチも設置されています。客室は「望」(約150m2)と「蒼」(約120m2)の2タイプで、一棟貸しも可能です。

出雲屋敷:江戸時代の趣と現代的居住性の融合

江戸期のものと推定される「出雲屋敷」は、本格的な日本建築です。茶室・数寄屋研究の大家である建築史家・中村昌生氏がリノベーションを手掛け、歴史的建造物としての価値を保ちつつ、水回りなどの近代的な設備や、海外からの宿泊者も快適に過ごせる椅子座のリビングが設けられています。「備後畳表」や漆喰塗りの白い土塀など、地域の伝統工芸や素材を随所に活かし、尾道の美意識を伝えています。

客室は「月」(約130m2)と「雲」(約140m2)の2タイプ。庭園に繋がるお月見台がある「月」や、茶室・煎茶室も備える「雲」など、それぞれ異なる魅力があります。こちらも一棟貸しが可能です。

これらのリノベーションは、単に建物を綺麗にするだけでなく、その建物が持つ物語や歴史的価値を最大限に引き出し、それを現代の宿泊体験へと昇華させている点が成功の核となっています。これは、建築と歴史、そして地域の文化への深い理解と敬意がなければ成しえない"禁断の"技術と言えるでしょう。

2. 「貸家」という新しい宿泊スタイルの提案と「暮らすように泊まる」体験

「せとうち 湊のやど」は、一般的な旅館やホテルとは異なり「貸家」として運営されています。これが2つ目の"禁断の"秘密です。宿泊者が自宅のように自由に過ごせることを目的としており、「歴史を刻んだ湊で穏やかな町の息遣いを感じながら、暮らすようにゆったり愉しむ」というコンセプトを体現しています。

一棟貸しのため、プライベートな空間で気兼ねなく過ごしたい旅行者や、少人数での長期滞在、大家族での利用に適しています。キッチンには調理器具や食器、冷蔵庫などが完備されており、地元食材を自分で調理することも可能。朝食のデリバリーサービスも提供されており、まさに「暮らすように泊まる」体験が実現されます。

この"禁断の"秘密は、宿泊客に「観光客」ではなく「滞在者」としての視点を与えることです。尾道の街を散策し、地元の人々と交流し、潮の香りを感じながら瀬戸内の日々に浸るような深い滞在は、単なる観光では得られない価値を提供し、リピーター獲得に繋がっています。

3. 地域との深いつながりと「観光地経営」の視点

「せとうち 湊のやど」の成功を支える3つ目の"禁断の"秘密は、運営元のディスカバーリンクせとうちが持つ「地域の『稼ぐ力』を引き出し、地域への誇りと愛着を醸成する『観光地経営』の視点に立った観光地域づくり」という強い意識と、地域との深い連携です。

同社は、観光庁の日本版DMO候補法人にも登録されており、行政や関係企業と連携しながらマーケティング調査や分析を行い、効果的なプロモーションを実施しています。空き家となっていた歴史的建造物を宿泊施設として活用することで、街並み保存に貢献し、同時に地域の雇用創出も実現しています。

宿の運営においても、地元の農家と連携して食材を調達したり、抹茶道具や煎茶道具のレンタル、写経体験、本格的な茶道体験、尾道水道のボートツアーなど、地域に根ざしたアクティビティを提供。さらに、地域の清掃活動や祭り、イベントにも積極的に参加するなど、地域社会への貢献を重視しています。

この"禁断の"秘密は、短期的な収益追求だけでなく、地域全体のブランド価値向上と持続可能な発展を目的とした「利他的な事業推進」にあります。地域住民が事業に誇りを持ち、積極的に関わることで、真の地域活性化が実現するのです。

4. 戦略的な事業展開と柔軟な方針転換

最後の"禁断の"秘密は、ディスカバーリンクせとうちの「戦略的な事業展開」と、その裏にある「柔軟な方針転換」です。同社は「せとうち 湊のやど」を皮切りに、サイクリスト向け複合施設「ONOMICHI U2」、地域資源を活かした「尾道デニムプロジェクト」、シェアオフィス「ONOMICHI SHARE」など、多角的な事業を戦略的に展開しています。これにより、単一の事業に依存せず、尾道の持つ多様な魅力を最大限に引き出し、地域全体を活性化させています。

特に注目すべきは、その驚くべき機動力と柔軟性です。当初は古民家リノベーションを中心とした事業を計画していましたが、県営海運倉庫の活用公募が始まった際には、会社のリソースを集中させて「ONOMICHI U2」事業へと方針転換し、わずか1年という短期間でオープンにこぎ着けました。この決断力と実行力が、事業を成功へと導いたのです。

この"禁断の"秘密は、市場や環境の変化に迅速に対応し、リスクを恐れずに大胆な一手を打つ「攻めの経営」にあります。一方で、短期的な利益追求に終始せず、「街のために何をすべきか」という長期的な視点を決して見失わないことが、持続的な成長を可能にしています。歴史的建造物を次の世代に引き継ぎ、50年、100年と遺していくという彼らの目標は、その哲学を如実に物語っています。

空き家再生と地域ブランディングの共通項と"禁断の"相違点

熱海と尾道の事例を見ると、両者に共通する成功要因と、それぞれの地域特性を活かした"禁断の"相違点が見えてきます。

共通項:成功を導く普遍的な要素

  • 情熱を持ったリーダーの存在: 熱海の市来広一郎氏や尾道の出原昌直氏のように、地域の課題を深く理解し、具体的なビジョンを持ち、それを行動に移せる強力なリーダーシップが成功の原動力となっています。
  • 地域資源の徹底的な活用: 温泉、海、歴史的建造物、地場産業(デニム、干物など)といった、その地域ならではの魅力を深く掘り下げ、新たな価値を付加しています。
  • 多様な主体との連携と協働: 行政、地元住民、NPO、民間企業、移住者など、様々な立場の関係者が協力し、それぞれの強みを活かした官民連携の取り組みが進められています。
  • 「点」ではなく「面」でのアプローチ: 個々の空き家や施設を単独で再生するだけでなく、地域全体を一つのまとまりとして捉え、点在する要素を連携させながら、地域全体の回遊性や魅力を高めることに成功しています。
  • 持続可能な事業モデルの構築: 補助金に頼るだけでなく、リノベーション物件や提供するサービスから収益を上げ、活動を継続させるためのビジネスモデルを構築しています。
  • 情報発信とストーリーテリング: 地域の新たな魅力や、それに関わる人々のストーリーを積極的に発信し、人々の共感を呼び、関心を高めるマーケティング戦略を重視しています。

"禁断の"相違点:地域特性が織りなす独自性

熱海と尾道の間に見られる"禁断の"相違点は、それぞれが自らの地域特性と課題に合わせた"最適解"を追求している点にあります。

  • イメージ戦略の違い: 熱海は、従来の「寂れた温泉街」イメージを刷新し、「おしゃれ」「レトロモダン」「クリエイティブ」といった新しいイメージを前面に押し出しました。「熱海プリン」のような写真映えするコンテンツや、洗練された空間デザインを重視し、SNSを活用して若年層に強く訴求しています。これは、かつての栄華を取り戻す「Make Atami Great Again」という言葉に象徴される、"再生"と"刷新"の物語です。

    一方、尾道は、古くから残る歴史的な街並みや空き家を「負の遺産」ではなく「価値ある地域資源」と捉え、その"歴史性"と"物語性"を最大限に活かすことに注力しています。「せとうち 湊のやど」や「尾道デニムプロジェクト」のように、建物の趣や地元の人々の暮らしの物語を深く掘り下げ、それらを体験として提供することで、"再発見"と"継承"の物語を紡いでいます。これは、新しいものを生み出すよりも、既存の価値を深化させるアプローチと言えるでしょう。

  • ターゲット層とアプローチの重点: 熱海は、団体旅行から個人旅行へのシフト、若者、ファミリー層、そしてワーケーションといった多様なニーズに応えるため、幅広い層にアプローチしています。特に「クリエイティブな30代」をシャッター街再生のターゲットに据えるなど、明確なデモグラフィックターゲティングが見られます。

    尾道は、サイクリストという特定のニッチな層に特化した「ONOMICHI U2」で成功を収めつつ、「せとうち 湊のやど」で歴史や文化を深く体験したい層、「尾道デニムプロジェクト」で物語性のある消費を求める層など、それぞれの事業で異なるターゲットを持つ多層的なアプローチを展開しています。全体としては「住む人と訪れる人の両方」という視点から、地域に溶け込むような体験を提供することに重点を置いています。

  • 空き家活用の動機と目的: 熱海は、空き家率の高さ(50%超)という喫緊の課題に対し、「住める物件がない」という住宅不足を解消し、同時に商店街の活性化と賑わい創出を目指しています。空き家を「稼ぐ場所」として再生することで、持続可能なまちづくりを実現しようとしています。

    尾道も空き家問題は抱えていますが、それ以上に「歴史的街並みの保存」と「地域の雇用創出」という、より広い視点で空き家再生に取り組んでいます。空き家をただ埋めるのではなく、地域固有の文化や伝統を未来に継承する「まちの財産」として位置づけ、その活動が結果的に経済活性化に繋がっているという側面が強いです。

この"禁断の"相違点は、地方創生には決して画一的な「正解」はなく、それぞれの地域が持つ固有の歴史、文化、地理、そして直面する課題に応じて、最適な戦略をカスタマイズする必要があることを示唆しています。熱海が「おしゃれ」を軸に大きくイメージを変革したのに対し、尾道は「歴史と物語」を軸に深化させた。どちらが"古い"、"新しい"という単純な評価ではなく、その地域にとって最も効果的なアプローチを見つけ出し、徹底して実践している点が、両市の成功の鍵なのです。

地方創生における"禁断の"真実:模倣ではない、その地域ならではの価値創造

熱海と尾道の事例が教えてくれる地方創生における"禁断の"真実、それは「模倣では決して成功しない」ということです。

多くの地域が成功事例を真似しようとしますが、熱海が熱海プリンで成功したからといって、他の地域が名産品を可愛くパッケージングすれば必ず成功するわけではありません。尾道の「せとうち 湊のやど」が歴史的建造物を再生して人気を博したからといって、他の地域で古民家を宿にすれば集客できるわけでもありません。

成功の"禁断の"秘密は、むしろその逆、つまり「その地域にしか持ちえない独自の価値を徹底的に掘り起こし、それを磨き上げ、独自の物語として発信する」ことにあります。

  • 熱海の物語: 華やかな歴史と一度は失われた賑わいを、若きリーダーと多様なプレイヤーが「おしゃれ」というフィルターを通して"再創造"し、新しい熱海を築き上げた物語。
  • 尾道の物語: 坂道と路地が織りなす歴史的な街並みの中で、空き家という「負の資産」を「物語を紡ぐ場」へと"再定義"し、文化と産業を融合させながらゆっくりと街を育む物語。

これらの物語は、それぞれの地域でしか生まれ得ないものです。そして、この物語を語り、体現する「人」の存在が何よりも重要になります。熱海では市来氏と多様なクリエイターや事業者、尾道では出原氏とディスカバーリンクせとうちのメンバー、そして「尾道空き家再生プロジェクト」の豊田氏をはじめとする地域の人々が、その物語の担い手となっています。

地方創生の本質は、派手なイベントや一時的な補助金に頼ることではありません。地域に根差した人々が、自らの地域への深い愛着と誇りを持ち、時にはリスクを背負いながらも、地域のために何ができるかを問い続け、地道に、そして創造的に活動を続けること。そして、行政は、その志ある民間の動きを阻害せず、むしろ積極的に後押しする体制を築くこと。これが、持続可能な地方創生を実現する"禁断の"方程式と言えるでしょう。

まとめと今後の展望

熱海と尾道の事例は、日本の地方都市が抱える空き家問題と地域経済の停滞に対し、異なるアプローチで成功を収め得ることを示しています。熱海が「再生」をテーマに大胆なイメージ刷新と多様なニーズへの対応を図ったのに対し、尾道は「継承」をテーマに歴史的資源の深掘りと物語性の創出に力を入れました。

「せとうち 湊のやど」は、単なる宿泊施設ではなく、歴史を「暮らす」という形で体験できる場であり、地域文化の発信拠点、そして地域経済を潤す事業モデルとして成功しています。その"禁断の"秘密は、

  • 歴史と現代性を融合させた質の高いリノベーション
  • 「貸家」という概念による「暮らすように泊まる」体験の提供
  • 地域との深い連携と「観光地経営」の視点
  • 戦略的な事業展開と環境変化への柔軟な対応

これらの要素が複雑に絡み合い、尾道ならではの価値を創出しているのです。そして、この成功は、他の地域にとっての「模倣すべきテンプレート」ではなく、「自らの地域に潜む"禁断の"価値を見つけ出すためのヒント」となるはずです。

地方創生の道のりは決して平坦ではありません。しかし、熱海や尾道のように、地域固有の魅力を信じ、それを磨き上げ、物語として発信し続けることで、新たな未来を切り開くことができるはずです。あなたの地域に眠る"禁断の"秘密は何でしょうか?今こそ、それを探し出し、解き放つ時です。

この「禁断の秘密」を、あなたの地域の未来のために、ぜひ活用してください。