本当に進んでいる?日本のフードロス削減:コンビニ・スーパーの取り組みと消費者の意識

はじめに:日本の食品ロス問題の深刻さ
「食品ロス」とは、まだ食べられるにもかかわらず捨てられてしまう食品のことです。この問題は、日本だけでなく世界中で深刻な課題として認識されており、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」においても、2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させることがターゲットの一つ(目標12.3)として掲げられています。
日本における食品ロスの現状は、年間約472万トン(令和4年度推計値)にも上ります。これは、国民一人あたりに換算すると、毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てているのと同じくらいの量と言われています。このうち、約半分にあたる236万トンが家庭から発生する「家庭系食品ロス」、残りの236万トンが食品関連事業者から発生する「事業系食品ロス」です。
食品ロスは、単に「もったいない」というだけでなく、経済的にも環境的にも大きな影響を与えます。廃棄される食品の処理には多大なコストがかかり、2022年度には約4兆円もの経済損失が発生したと推計されています。また、食品を焼却する際には温室効果ガスが発生し、気候変動の一因となります。国連の推計では、世界の食品ロスと廃棄が世界の年間温室効果ガス排出量の8〜10%を占めるとされています。
日本政府は、この喫緊の課題に対し、2030年度までに2000年度比で家庭からの食品ロスを半減(2000年度約489万トン→2030年度約244万トン)するという削減目標を掲げ、徹底的な取り組みを進めています。事業系食品ロスについては、令和4年度に既に目標(2000年度約547万トン→2030年度約273万トン)を達成しましたが、家庭系食品ロスは依然として目標値に達しておらず、さらなる対策強化が求められています。
食品ロス削減に向けた国の取り組みと法制度
食品ロス削減を国民運動として推進するため、日本では2019年に「食品ロスの削減の推進に関する法律」(食品ロス削減推進法)が施行されました。この法律に基づき、政府は「食品ロスの削減に関する基本的な方針」を閣議決定し、自治体、事業者、消費者それぞれが連携して取り組むべき方向性を示しています。
政府主導の具体的な対策としては、以下のようなものがあります。
- 啓発活動の強化: 食品ロス削減の重要性を伝えるため、テレビCMやポスター、啓発冊子の配布など、様々なメディアを活用した家庭向けの啓発活動が行われています。特に子供たちへの教育も強化されています。
- ガイドライン策定: 企業や自治体向けに、食品ロス削減のための具体的な指針やガイドラインを提供し、取り組みを支援しています。
- データ管理の向上: 食品廃棄量のデータ管理を徹底し、削減効果を数値化することで、より効果的な対策につなげています。
- 「3010運動」の推進: 宴会などで、最初の30分と最後の10分は自席で食事を楽しむことで食べ残しを減らす運動です。長野県松本市で始まり、全国に広がっています。
- 賞味期限・消費期限表示の見直し: 消費者が期限を過剰に気にして食品を廃棄することを減らすため、「消費期限」(安全に食べられる期限)と「賞味期限」(おいしく食べられる期限)の二段階表示の推奨や、一部加工食品における「年月日」表示から「年月」表示への大括り化が進められています。
- 納品期限の緩和: 食品業界の商慣習である「1/3ルール」(製造日から賞味期限までの期間を3分割し、最初の1/3以内に納品するというもの)を見直し、納品期限を1/2に緩和する動きが広がっています。これにより、流通過程での食品ロス削減が期待されます。
- フードバンク支援: まだ食べられる食品を必要とする人々に提供するフードバンク活動を促進するため、食品の寄附等を促進するための法的措置やフードバンク団体の体制強化が進められています。
これらの取り組みは、政府、自治体、事業者、そして私たち消費者が一体となって進めることで、より大きな成果につながります。
事業系食品ロス削減の最前線:コンビニ・スーパーの具体的な取り組み
食品関連事業者の中でも、特に私たちの生活に身近なコンビニやスーパーは、その店舗数の多さや商品の性質上、食品ロスが多く発生しやすいという課題を抱えています。短い販売期限の商品が多いことや、需要予測の難しさ、そして長年の商慣習である「1/3ルール」などがその原因として挙げられます。
しかし、近年、コンビニやスーパー各社は、食品ロス削減に向けて積極的かつ多様な取り組みを展開しています。ここでは、その具体的な事例を見ていきましょう。
コンビニ各社の取り組み事例
コンビニ業界全体で共通して推進されている取り組みの一つに、「てまえどり」運動があります。これは、すぐに食べる予定の商品を購入する際に、商品棚の手前にある期限の近い商品から選んでもらうよう消費者に呼びかけるものです。消費者庁、農林水産省、環境省と日本フランチャイズチェーン協会が連携して推進しており、各店舗でPOPなどを掲示しています。
また、各社は独自の発注システムや商品開発、リサイクルなど、様々なアプローチで食品ロス削減を目指しています。
セブンイレブン:
- 長鮮度化: 素材、製造工程、温度管理を見直し、チルド弁当や惣菜などの消費期限を延長する取り組みを進めています。ガス置換包装技術の活用なども行われています。
- 「エコだ値」/エシカルプロジェクト: 販売期限が近い商品を電子マネーで購入した顧客にポイントを付与することで、消費を促し食品ロスを削減する取り組みです。これは環境省・消費者庁の食品ロス削減推進表彰で消費者庁長官賞を受賞するなど、高く評価されています。
- フードバンク寄付: 閉店・改装時や、賞味期限前の余剰加工食品をフードバンク団体や社会福祉協議会に寄付しています。
- 環境循環型農業: 店舗から出る食品残さを堆肥化し、自社農場「セブンファーム」で利用し、そこで栽培した農産物を店舗で販売する取り組みを行っています。
ローソン:
- セミオート発注システム: 店舗ごとの売上や天候などを分析し、最適な発注数を推奨するシステムを導入することで、売れ残りや機会ロスを削減しています。
- フードバンク寄付: 納品期限が切れた加工食品などを定期的にフードバンク団体に寄贈しています。
- Another Choiceプログラム: 消費期限が近い商品購入でポイント付与と同時に子供たちへの寄付も行うプログラムを実施しました。
ファミリーマート:
- 「ファミマのエコ割」(涙目シール): 消費期限の近い中食商品を値下げ販売し、さらに「たすけてください」といったメッセージ付きの「涙目シール」を貼ることで、消費者の共感を呼び、食品ロス削減への協力を促しています。実証実験では年間約3000トンの食品ロス削減効果が見込まれています。
- 規格外食材の活用: 大きさや形が不揃いな規格外バナナ(もったいないバナナ)や、サーモンの切れ端、規格外野菜、カカオフルーツの果汁などを活用したオリジナル商品を開発・販売しています。
- 食品リサイクルループ: 店舗から出る食品廃棄物を飼料化し、その飼料で育てた豚を食材にした商品を製造・販売する取り組みを全国に拡大しています。
- 廃食用油リサイクル: 店舗の廃食用油を石鹸やインク、バイオディーゼル燃料(佐賀市との連携事例)などにリサイクルしています。
ミニストップ:
- 廃食用油リサイクル: ファストフード製造で出る使用済み油をほぼ100%リサイクルしています。
- 食品リサイクル: 販売期限切れ商品を堆肥化、飼料化、バイオガス化する取り組みを積極的に行っています。

スーパーの取り組み事例
スーパー業界でも、食品ロス削減に向けた様々な取り組みが進められています。
- 1/3ルール緩和への対応: 環境省の通知を受け、加工食品を中心に納品期限を1/2に緩和する動きが広がっています。セブン&アイグループ(イトーヨーカ堂など)でも、この緩和を積極的に実施しています。
- 予約販売の促進: 恵方巻やクリスマスケーキなど、季節限定商品の大量廃棄を防ぐため、事前の予約販売を推奨するスーパーが増えています(ヤマナカの恵方巻廃棄率削減事例など)。
- 加工後の端材活用: カットフルーツの切れ端などをドライフルーツに加工して販売するなど、商品製造過程で出る端材を無駄なく活用する取り組みも行われています(ヤオコーの事例)。
- フードバンクへの寄付: 賞味期限前の商品をフードバンク団体に寄付する取り組みも広がっています(イトーヨーカ堂の事例)。
- 食品廃棄量の公表とリサイクル: イオンのように、食品廃棄量を公表し、その多くを肥料などに再利用する取り組みを進めている企業もあります。
海外の先進事例
海外では、より踏み込んだ食品ロス対策が進められている国もあります。
- フランス: 2016年に、一定規模以上のスーパーに対し、食品廃棄を禁止し、余った食品を慈善団体に寄付するか、肥料・飼料として転用することを義務付ける法律が成立しました。違反には罰金が科せられます。
- デンマーク: 2016年に世界初の「食品ロス専門スーパー」であるWefoodがオープンしました。賞味期限切れや規格外の食品を割安で販売し、廃棄から救い出しています。
これらの海外事例は、日本の食品ロス削減をさらに加速させるための参考となるでしょう。
家庭系食品ロス削減の現状と課題
事業系食品ロスが目標達成に向けて着実に減少している一方で、家庭系食品ロスは依然として全体の約半分を占め、削減目標達成に向けた大きな課題となっています。家庭で食品ロスが発生する主な原因は多岐にわたります。
- 買いすぎ: 特売品につられて必要以上に購入し、使いきれずに傷ませてしまう。
- 作りすぎ: 食べきれない量の料理を作ってしまい、残りを捨ててしまう。
- 食べ残し: 食事中に食べきれずに残してしまう。
- 保存方法の間違い: 食材を適切に保存せず、傷ませたり腐らせたりしてしまう。
- 賞味期限・消費期限切れ: 期限が過ぎてしまったことを理由に捨ててしまう。
特に、世代によって食品ロスの原因や量に傾向があることも研究で明らかになっています。立命館大学の研究によると、70代以上の高齢層は調理時に可食部も含めて捨ててしまう「過剰除去」が多く、29歳以下の若年層は「食べ残し」が多い傾向が見られます。高齢層は廃棄量自体も多いというデータもあり、世代別の特性を踏まえた対策の重要性が指摘されています。
家庭での食品ロス削減には、私たち一人ひとりの意識改革と日々の行動変容が不可欠です。政府や自治体も啓発活動を強化していますが、その効果をさらに高めるためには、個々人が主体的に取り組む姿勢が求められます。
私たち消費者にできること:今日から始める食品ロス削減アイデア
家庭系食品ロスを減らすために、私たち消費者が日常生活の中で実践できることはたくさんあります。小さなことからでも、意識して取り組むことが大切です。
- 買い物前のチェックと献立計画: 冷蔵庫や食品庫にある食材をチェックし、必要なものだけをリストアップしてから買い物に行きましょう。1週間分の献立を計画すると、食材を無駄なく使い切ることができます。
- 「てまえどり」の実践: スーパーやコンビニで商品を選ぶ際は、すぐに食べる予定であれば、商品棚の手前にある期限の近い商品から積極的に選びましょう。これはお店の食品ロス削減に直接貢献できます。
- 食品の期限表示を正しく理解: 「賞味期限」は「おいしく食べられる期限」であり、期限を過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではありません。「消費期限」は「安全に食べられる期限」なので、こちらは守る必要があります。表示の意味を理解し、見た目や匂いで判断することも大切です。
- 適切な保存方法の工夫: 食材の種類に合わせて、冷蔵、冷凍、常温など適切な方法で保存しましょう。野菜の鮮度を保つ工夫や、冷凍保存のテクニックなどを活用することで、食品を長持ちさせることができます。
- 食べきれる量の調理と注文: 料理を作る際は、家族構成や食べる量に合わせて適量を作りましょう。外食時も、食べきれる量だけを注文することを心がけ、「小盛メニュー」などを活用するのも良い方法です。
- 外食時の「mottECO(モッテコ)」利用: 食べきれなかった料理を持ち帰る「mottECO」の取り組みを推奨している飲食店が増えています。持ち帰り可能な場合は、積極的に利用を検討しましょう。
- フードドライブへの参加: 自治体や企業、地域の施設などで実施されているフードドライブに、家庭で余っている未開封で賞味期限が十分に残っている食品を寄付しましょう。これは食品ロス削減と社会貢献を同時に実現できる取り組みです。
- 規格外品や値引き商品の積極的な購入: 形が不揃いなだけで味や品質に問題のない規格外品や、期限が近いことで値引きされている商品を積極的に購入することも、食品ロス削減につながります。
これらのアイデアを参考に、今日からできることから一つずつ始めてみましょう。
今後の展望と持続可能な社会に向けて
日本の食品ロス削減は、政府、自治体、事業者、そして私たち消費者がそれぞれの役割を果たし、連携を強化することで着実に進んでいます。事業系食品ロスは目標を達成しましたが、家庭系食品ロスは依然として大きな課題であり、さらなる努力が必要です。
今後は、テクノロジーの活用も食品ロス削減の鍵となるでしょう。スマート冷蔵庫による食材管理や、AIを活用した需要予測システムの高度化などが期待されています。また、世代別の食品ロス傾向を踏まえた、よりターゲットを絞った効果的な啓発活動や対策も重要になります。
食品ロスを減らすことは、家計の節約になるだけでなく、廃棄物処理に伴う環境負荷を減らし、食料資源を有効活用することにつながります。これは、持続可能な社会を実現するための重要な一歩です。

まとめ
日本の食品ロス問題は深刻ですが、国、自治体、企業、そして私たち消費者一人ひとりの取り組みによって、削減に向けた動きは確実に進んでいます。コンビニやスーパーは、発注システムの改善、長鮮度化、規格外品の活用、リサイクルなど、様々な工夫を凝らして事業系食品ロス削減に貢献しています。しかし、家庭系食品ロスも全体の大きな割合を占めており、私たち消費者の意識と行動が不可欠です。
買い物前のチェック、献立計画、「てまえどり」の実践、適切な保存、食べきりなど、今日からできることはたくさんあります。これらの小さな一歩が積み重なることで、日本の食品ロスはさらに削減され、より持続可能な社会の実現につながるでしょう。食品を大切にする「もったいない」の心を忘れずに、日々の暮らしの中で食品ロス削減を実践していきましょう。