鳥獣戯画展だけじゃない上野の魅力!アートな散歩コースを歩こう

特別展が開催されるたびに多くの人々で賑わう上野公園。東京国立博物館で開催される「鳥獣戯画展」のような人気企画展はもちろん魅力的ですが、上野公園の本当の魅力は、特定の展示期間だけでなく、いつでも、そして多くの場合無料で、素晴らしいアートや文化に触れられる点にあります。
広大な敷地を持つ上野恩賜公園には、日本を代表する美術館や博物館が集結しており、その建物自体が芸術作品であったり、屋外に設置された彫刻やオブジェが公園の景観と一体となっていたりします。今回は、そんな上野公園を舞台に、アートを巡る散歩コースをご提案します。特別展のチケットがなくても、気軽にアートと自然を満喫できる、知的好奇心をく刺激される旅に出かけましょう。
アートの宝庫、上野公園を歩く
上野恩賜公園は、明治6年(1873年)に日本で初めて指定された公園の一つであり、その歴史の中で文化・芸術の中心地としての役割を担ってきました。園内には、東京国立博物館、国立西洋美術館、東京都美術館、国立科学博物館、東京藝術大学大学美術館といった名だたる文化施設が集まっています。これらの施設は、それぞれが独自のコレクションや企画展を持つだけでなく、建築物としても非常に価値が高く、公園の豊かな緑の中に溶け込むように佇んでいます。
しかし、上野公園のアートは建物の中だけにとどまりません。公園のいたるところに、彫刻、記念碑、ユニークなオブジェなどが点在しており、これらは「パブリックアート」として、訪れる人々に開かれた形で展示されています。これらの屋外アートは、美術館に入るためのチケットがなくても、誰でも自由に鑑賞できるのが大きな魅力です。散歩をしながら、思わぬ場所で素晴らしい作品に出会える喜びは、上野公園ならではの体験と言えるでしょう。
また、公園内の案内板やピクトグラム、さらにはポストやマンホールの蓋といった日常的なものにも、地域ならではのデザインやアートが隠されています。こうした細部に目を凝らすことで、上野公園の多様な魅力をより深く感じることができます。
上野アート散歩モデルコース
JR上野駅公園口からスタートし、主要な美術館・博物館の外観や屋外展示、そして公園内の見どころを巡るアート散歩コースをご紹介します。このコースは、特定の展示を見るというよりは、公園全体の雰囲気や点在するアート作品、建築を楽しむことに重点を置いています。
1. JR上野駅公園口からスタート
散歩の始まりは、モダンに生まれ変わったJR上野駅公園口から。2020年に移設されたばかりの駅舎は、明るく開放的なデザインです。ここから公園へと足を踏み入れます。改札を出てまっすぐ進むと、上野動物園の表門へと続く動線になっていますが、今回は動物園には入らず、アートを求めて公園内を巡ります。
2. 国立西洋美術館:世界遺産の建築と巨匠の彫刻
公園に入ってすぐ右手に見えるのが、国立西洋美術館です。この美術館の本館は、近代建築の巨匠ル・コルビュジエによって設計され、2016年には世界文化遺産に登録されました。建物自体が重要なアート作品であり、そのモジュールやピロティといった特徴的なデザインをじっくり観察するのも面白いでしょう。
国立西洋美術館の屋外、前庭には、オーギュスト・ロダンの彫刻が複数展示されています。特に有名なのは、《考える人》や《地獄の門》です。これらの作品は、美術館の開館時間内であれば、無料で自由に鑑賞することができます。世界的に有名なロダンの作品を、屋外で、しかも無料で間近に見られる場所は世界的にも珍しいと言われています。ブールデルの《弓をひくヘラクレス》も力強い作品です。
3. 東京都美術館:アートへの入り口と屋外作品
国立西洋美術館から公園の奥へ進むと、東京都美術館が見えてきます。大正15年(1926年)に日本初の公立美術館として開館した歴史ある美術館ですが、現在の建物は前川國男の設計によるものです。ユニバーサルデザインが取り入れられたモダンな空間は、「アートへの入り口」として多くの人に開かれています。入館自体は無料なので、ロビーやショップ、カフェを利用するだけでも立ち寄れます。
東京都美術館の敷地内や周辺にも屋外展示があります。特に注目したいのが、建物の裏手にある「芸術の散歩道」です。ここには、東京藝術大学の学生の卒業・修了制作の中から、東京都知事賞に選ばれた作品が屋外展示されています。これらの作品は毎年入れ替わるため、訪れるたびに新しい発見があります。臼田貴斗氏の《はだかの王様》や伊東五津美氏の《Sun Room》、成瀬隆之氏の《とらわれた男》、御代将司氏の《ねぇ、おねがい》など、ユニークで個性的な作品が並びます。井上武吉氏の《my sky hole 85-2 光と影》のような収蔵品も屋外に展示されており、公園の緑の中でアートを楽しむことができます。
4. 国立科学博物館:巨大なオブジェと科学技術の粋
東京都美術館からさらに進むと、国立科学博物館が見えてきます。ここは日本の科学研究の中心であり、膨大な標本資料を所蔵する総合科学博物館です。建物自体も歴史があり、上から見ると飛行機のような形をした日本館は国の重要文化財です。
国立科学博物館の屋外には、その規模に圧倒される巨大なオブジェが展示されています。最も目を引くのは、全長30メートルもある実物大のシロナガスクジラの模型です。博物館の敷地内に入らなくても、外からその大きさを体感できます。また、D51形蒸気機関車や、日本の宇宙開発を支えたラムダロケット用ランチャーなども屋外に展示されており、科学技術の歴史を感じることができます。

5. 東京国立博物館:日本最古の博物館と広大な敷地
国立科学博物館から噴水広場の方へ向かうと、その奥に東京国立博物館(トーハク)の威厳ある本館が見えてきます。明治5年(1872年)に始まった博覧会を起源とする、日本で最も長い歴史を持つ博物館です。約12万件もの収蔵品は質・量ともに日本最大級で、国宝や重要文化財を多数含んでいます。
トーハクの敷地は非常に広く、本館、平成館、東洋館、法隆寺宝物館、黒田記念館、表慶館といった複数の建物が点在しています。これらの建物もそれぞれ建築様式が異なり、見ごたえがあります。特に本館は渡辺仁の設計によるもので、その重厚な佇まいは「美術の殿堂」と呼ばれた旧東京府美術館の面影も感じさせます。敷地内の庭園も美しく、散策に適しています。
また、トーハクの敷地内(道を隔てていますが)にある黒田記念館は、洋画家・黒田清輝の作品を展示しており、こちらは入館無料です。本館や他の有料展示を見なくても、黒田記念館だけを訪れることも可能です。
6. 東京藝術大学大学美術館と藝大アートプラザ:未来の芸術家に出会う
トーハクの近くには、日本最高峰の芸術大学である東京藝術大学があります。その敷地内にある東京藝術大学大学美術館は、藝大が収集してきた貴重な資料や、学生・教員の作品を展示しています。展覧会開催時のみ開館しますが、そのユニークな企画展は常に注目を集めています。
大学美術館に併設されている藝大アートプラザは、学生や卒業生、教員といった藝大に関わる作家の作品を展示・販売しているスペースです。ガラス張りで開放的な空間には、絵画、彫刻、工芸品など、様々なジャンルの作品が並びます。未来の芸術家の作品に出会えるかもしれない、刺激的なスポットです。購入も可能なので、お気に入りの一点を見つけてみるのも良いでしょう。
7. その他の見どころ:歴史的建造物や隠れたアート
上野公園には、他にもアートや歴史を感じさせるスポットがたくさんあります。
- 旧東京音楽学校奏楽堂: 国の重要文化財に指定されている、日本最古の音楽ホールです。明治時代の洋風建築として非常に価値が高く、コンサートなども開催されています。
- 上野東照宮: 徳川家康公を祀る神社で、社殿や唐門、透塀などが国の重要文化財です。これらの建造物には、当時の最高の技術で施された華やかな彫刻や装飾が数多くあり、屋外で美術鑑賞をしているような気分になれます。不定期で飾られる花手水も美しいです。
- 不忍池辨天堂: 不忍池の中島に立つお堂で、夕方にはライトアップされます。池のほとりを散策しながら、幻想的な雰囲気を楽しめます。
- 上野大仏: 関東大震災や戦時中の供出を経て顔面のみが残った大仏様。「これ以上落ちない」として受験生に信仰されています。
- 西郷隆盛像: 上野公園のシンボルとしてあまりにも有名です。多くの人が記念撮影をする人気のスポットです。
公園内を歩いていると、他にも様々な記念碑や彫刻に出会えます。正岡子規の野球ボール型の歌碑や、目を引くデザインの上野警察署動物園前交番(デザイン交番)、ラジオ体操の碑など、それぞれの由来や形に注目してみるのも面白いでしょう。
8. JR上野駅中央改札:駅構内のパブリックアート
散歩の締めくくりは、JR上野駅中央改札へ。ここにも素晴らしいパブリックアートがあります。
- 平山郁夫作 ステンドグラス「昭和六十年春 ふる里・日本の華」: 券売機の上に設置されたステンドグラスは、日本画家の平山郁夫氏による原画をもとに制作されました。新幹線沿線の花木や風物が描かれており、華やかで美しい作品です。
- 朝倉文夫作 彫刻「翼の像」: グランドコンコースに立つこの彫刻は、待ち合わせ場所としても親しまれています。今にも飛び立ちそうな躍動感があります。
- 朝倉文夫作 彫刻「三相 智情意」: 16番線近くにあるこの作品は、背中合わせに立つ3人の女性像です。作者の朝倉文夫氏が、自身の生誕と上野駅開設が同じ年であることを知り、駅に寄贈したというエピソードがあります。
東京メトロ上野駅の地下コンコースには、宮田亮平氏監修のステンドグラス「上野今昔物語」もあり、上野の歴史や文化が描かれています。駅構内も立派なアート空間なのです。
無料でも楽しめる!上野公園のアート
上野公園のアート散歩の大きな魅力は、多くの作品や建築を無料で楽しめる点です。美術館や博物館の特別展は有料ですが、以下のものは基本的に無料で鑑賞できます。
- 公園内の屋外彫刻・オブジェ: ロダンの《考える人》や《地獄の門》、芸術の散歩道の作品、シロナガスクジラ、D51、各種記念碑、デザイン交番など、公園内に点在するほとんどの屋外アートは無料です。
- 美術館・博物館の外観・建築: 国立西洋美術館(世界遺産)、東京都美術館(前川國男設計)、東京国立博物館(本館)、国立科学博物館(日本館)など、名建築の外観はいつでも自由に鑑賞できます。旧東京音楽学校奏楽堂や上野東照宮といった歴史的建造物も、外観や境内の一部は無料で見学できます。
- 駅構内のパブリックアート: JR上野駅や東京メトロ上野駅にあるステンドグラスや彫刻は、駅を利用する際に無料で楽しめます。
- 黒田記念館: 東京国立博物館の敷地内にある黒田記念館は、入館無料です。
- 藝大アートプラザ: 東京藝術大学構内にあるこのスペースは、入館無料で作品を鑑賞・購入できます。
- ピクトグラムやご当地デザイン: 公園内の案内表示や、ポスト、マンホール蓋といった日常に溶け込むアートも、注意して見れば無料で見つけられます。
また、国立西洋美術館では原則毎月第2日曜日や特定の記念日に常設展が無料になる「Kawasaki Free Sunday」などを実施しています。東京大学の学生は、上野の国立美術館・博物館の常設展が無料になる制度もあります。これらの情報を活用すれば、さらに多くの作品を無料で楽しむことができます。

アート散歩をさらに楽しむヒント
上野公園のアート散歩をより満喫するためのヒントをいくつかご紹介します。
- 季節ごとの変化を楽しむ: 上野公園は桜の名所として有名ですが、春だけでなく、新緑、紫陽花、紅葉など、四季折々の美しい自然を楽しむことができます。季節によって公園の景観が変わり、アート作品の見え方もまた違ってきます。
- イベント情報をチェック: 噴水広場などでは、週末を中心に様々なイベントが開催されています。ヘブンアーティストによるパフォーマンスやフリーマーケット、キッチンカーなどが出ていることもあり、賑やかな雰囲気を楽しめます。
- カフェや休憩スポットを活用: 公園内にはカフェやレストラン、ベンチなどが多くあります。疲れたら休憩したり、景色を眺めながらコーヒーを飲んだりするのも良いでしょう。不忍池のほとりでまったり過ごすのもおすすめです。
- 建築に注目する: 美術館や博物館の建物自体がアート作品であることに注目すると、散歩がさらに面白くなります。ル・コルビュジエや前川國男といった建築家の思想に思いを馳せながら歩いてみましょう。
- 隠れたアートを探す: ピクトグラムやマンホール蓋など、普段は気に留めないようなものにもアートが隠されています。宝探しのように探してみるのも楽しいかもしれません。
まとめ:上野公園であなただけのアート体験を
上野公園は、特定の特別展だけでなく、公園全体がアートと文化に満ちた魅力的な空間です。世界遺産の建築、巨匠の彫刻、ユニークな現代アート、歴史的建造物の装飾、そして駅構内のパブリックアートまで、様々なアートが点在しており、その多くを無料で楽しむことができます。
今回ご紹介したコースはあくまで一例です。興味のあるスポットに立ち寄ったり、気になる作品の前で立ち止まったりと、自分のペースで自由に散策してみてください。季節の移ろいを感じながら、緑豊かな公園でアートに触れる時間は、きっと心豊かな体験となるでしょう。
鳥獣戯画展のような話題の展示も素晴らしいですが、ぜひ次の週末は、チケットがなくても楽しめる上野公園のアートな散歩に出かけてみませんか?あなただけのお気に入りのアートスポットや作品が、きっと見つかるはずです。
